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神戸地方裁判所 平成7年(ワ)290号 判決 1997年11月19日

大阪府東大阪市吉田三丁目一三番一五号

原告

奥田朔鷹

右訴訟代理人弁護士

平正博

三木博

兵庫県明石市大久保町大久保町二一〇番地の五八

被告

有限会社央基礎工業

右代表者代表取締役

橋本政興

右訴訟代理人弁護士

深草徹

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙記載の工法を使用して杭打工事を行ってはならない。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告の特許権の存在

原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許発明を「本件特許発明」という。)を有する。

特許番号 第一四六七四三八号

発明の名称 ホイールクレーン杭打工法

出願日 昭和五八年一一月二九日

公告日 昭和六二年八月五日

登録日 昭和六三年一一月三〇日

特許請求の範囲 別紙特許請求の範囲記載のとおり(以下、その工法を「本件工法」という。)。

2  被告は、土木・建築を業とする会社であり、ホイールクレーン車を保有し、杭打工事等を施工しているところ、本件工法を業として実施して杭打工事を行っている。

3  よって、原告は、被告に対し、本件特許権に基づき、右2の行為の差止めを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1、2の事実は認める。

三  抗弁

(被告の本件特許権の先使用による通常実施権の取得)

1(一) 本件工法は、昭和四〇年頃に、株式会社寺田組(以下「寺田組」という。)において、本件特許発明の内容を知らないで、原告とは何らの関係もなく独自に発明されていた。寺田組は、当初はトラッククレーン車を使用し、昭和四六年頃からはラフタークレーン車すなわちホイールクレーン車を使用するようになったという変化はあったが、工法自体には何の変化もなく、継続して本件工法を実施してきた。

(二) 被告代表者橋本政興(以下「被告代表者」という。)は、寺田組の従業員として、本件工法による杭打工事に従事してきたが、昭和五一年ころ、寺田組から独立し、寺田組からホイールクレーン車、アースオーガー装置その他設備一式を譲り受けるとともに、本件工法を実施する許諾を得て、寺田組の専属下請業者として、本件工法を実施するようになった。

(三) したがって、被告代表者は、原告が本件工法について特許出願をした昭和五八年一一月二九日の時点で、本件特許発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、現に本件特許発明の実施である事業をしていた者として、特許法七九条により、本件特許権について先使用による通常実施権を有していた。

2 被告代表者は、平成二年四月、被告に対し、右本件特許権の通常実施権を含む本件工法を実施する機械設備一式を、その事業とともに現物出資した。

3 よって、被告は、特許法九四条一項により、本件特許権の通常実施権を有する。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の(一)(二)の事実は否認し、(三)は争う。

寺田組の誰が本件工法を発明したのか、その実施の時期及び場所、また被告代表者が寺田組から独立して本件工法を実施した時期及び場所はいずれも不明であり、それらの具体的な事実を明らかにすることなしに、被告代表者に本件特許権の先使用による通常実施権が認められるのであれば、本件特許権は無価値とならざるを得ず、本件においては、到底、被告代表者に右実施権は認められない。

2  同2は否認し、同3は争う。

第三  証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1、2の事実は当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1  (寺田組の先使用について)

(一)  被告代表者尋問の結果により真正に成立したと認められる乙第一号証、奈良県吉野郡川上村、南海電気鉄道株式会社、阪急電鉄株式会社及び神戸電鉄株式会社に対する各調査嘱託の結果、原本の存在及び成立に争いのない乙第七号証並びに被告代表者尋問の結果によれば、以下の事実が認められる(この認定を覆すに足りる証拠はない)。

(1) 寺田組は、昭和四〇年頃、原告とは何らの関係なく、独自に本件工法を開発し、次の各工事を含む工事において本件工法による杭打工事等を行っていた。

<1> 阪急電鉄池田駅付近連続立体交差工事

昭和五四年一二月から昭和五六年一一月まで(基礎杭打工事に係る期間)

<2> 神戸電鉄栄架道橋新設工事

昭和五四年一二月から昭和五五年二月まで(基礎杭打工事に係る期間)

<3> 神戸電鉄藍那第四拱橋改築工事

昭和五六年一月から同年三月まで(基礎杭打工事に係る期間)

<4> 奈良県吉野郡川上村立東小学校新築工事

昭和五六年一二月から昭和五七年二月まで(基礎杭打工事に係る期間)

<5> 国鉄芦屋橋架け替え工事

昭和五七年四月から昭和五八年三月まで

<6> 南海電鉄天見駅複線化工事

昭和五八年六月頃(基礎杭打工事に係る時期)

(2) 被告代表者は、昭和五〇年頃寺田組の従業員となったが、翌五一年頃、寺田組からホイールクレーン車、スパイラルスクリューその他機械工具類等本件工法を実施するための設備一式を譲り受け、寺田組から独立してその専属の下請業者となり、以後、後記被告設立当時まで、本件工法を使用して杭打工事等の事業を行っていた。

(二)  右認定事実によれば、被告代表者は、本件特許の出願前に、本件特許発明の内容を知らないでその発明をした寺田組から知得して本件工法を実施である事業を行っていたものであり、本件特許発明につき先使用による通常実施権(特許法七九条)を有していたものと認められる。

この点、原告は、寺田組の誰が本件特許発明を発明したのか不明であり、その事実を明らかにできなければ、本件特許権の先使用による通常実施権は認められないと主張する。

しかし、この先使用権の制度は、特許出願の際現に善意に国内においてその特許の発明と同一の技術思想を有し、かつ、これを自己のものとして事実的支配下に置いていた、すなわち当該技術思想に対する一種の占有状態が認められる者について、公平の見地から、出願人に権利が生じた後においてもなお継続して当該技術思想を実施する権利を認めたものと解するのが相当であるから、右先使用による通常実施権は、これを主張する者が、当該技術思想を既に認識していたことが同人の前記占有状態から認められる場合には、これを認めてかまわないのであって、特に誰が当該技術思想を発明したか等の点についてまで具体的に明らかになっている必要はないというべきである。

したがって、原告の右主張は採用できない。

2  (被告の先使用権の譲受けについて)

成立に争いのない乙第一〇号証、被告代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第一一、一二号証、官署作成部分は成立に争いがなく、その余の部分は被告代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第一三号証及び被告代表者尋問の結果によれば、被告代表者は、前記の個人で行っていた杭打工事等の事業を会社として行うべく、平成二年四月、従来殆ど休眠状態にあった被告の持分を取得してその代表取締役に就任したが、その際、本件工法を実施するためのホイールクレーン車その他機械類等の設備一切を現物出資として被告に譲渡し、以後被告において本件工法による杭打工事等の事業を行っていることが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、被告は、平成二年四月、被告代表者から本件特許権の先使用による通常実施権を実施の事業とともに譲り受けて取得し、これに基づいて、本件工法を実施しているものと認められる。

三  以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹中省吾 裁判官 橋詰均 裁判官 鳥飼晃嗣)

(別紙)

特許請求の範囲

走行できる車台上に架設されたホイールクレーン本体が水平面上で回転自在に設けられ、前記クレーン本体には起伏自在にブームの一端を枢着し、前記ブームの先端にはブーム挿入部を出没自在に設け長さの方向に伸縮自在にし、前記挿入部の先端に連結したアースオーガー装置を有するホイールクレーン車を用いる杭打工法において、前記アースオーガー装置に取り付けた掘進用のスパイラルスクリューに、前記ブームと前記クレーン本体との間に設けた前記牽引装置により前記ブームを牽引しブームに曲げモーメントを与えて、前記挿入部の先端から前記アースオーガー装置に前記ホイールクレーン車のほぼ全重量を乗せて垂直分力を与えると共に、ブームの長さをブーム挿入部に引き込める事により逐次縮小させ、前記挿入部の先端に垂直方向の垂直分力を前記アースオーガー装置に加圧しつつ杭打等を行うホイールクレーン杭打工法

以上

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